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日常生活やスポーツにおける身体の使い方について、いろいろ考えたことを整理してしばらく寝かせておくためのブログです。
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「北斗の人」
司馬遼太郎 著
講談社

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幕末に隆盛を誇った「北辰一刀流」の開祖 千葉周作が主人公の歴史小説で、修行時代から一派を確立するまでの物語である。

北辰一刀流がなければ、幕末の様相も多少変わっていただろうというほどの革命的な流派である。
『「他道場で三年かかる業(わざ)は、千葉で仕込まれれば一年で功が成る。五年の術は三年にして達する」という評判が高く、このため履物はつねに玄関から庭にまであふれ、撃剣の音は数町さきまできこえわたって空前の盛況をきわめた』というほどであり『凡才でも一流たりうる』という剣術教授法が特徴であった。

作者の司馬遼太郎は、千葉周作について『剣法から摩訶不思議の言葉をとりのぞき、いわば近代的な体育力学の場であたらしい体系をひらいた人物である。』と書いている。

もちろん小説なので、多少の脚色やフィクションもあるだろうが、スポーツの指導に携わる者として、感銘を受けたので、何箇所かを引用し、感想を書き留めておきたい。

以下引用
周作は道場でも、こうした兵法独特のまやかしの用語は一切使わなかった。
「剣の要諦はひとことで申してどういうことでございましょうか」
と門人がよくきく。こういうばあい、普通ならば、
「曰く、無」
などと師匠でさえわけのわかっていない哲学的表現をとるのが剣術家の常であったが、周作は、
「剣か。瞬息」
とのみ教えた。剣術の要諦はつきつめてみれば太刀がより早く敵のほうへゆく、つまり太刀行きの迅さ以外にはない。ひどく物理的な表現であり教え方であった。周作は剣を、宗教・哲学といった雲の上から地上の力学に引きずりおろした、といっていい。すこし長い言い方でいうと、周作はつねづね、
「夫(それ)剣は瞬息、心・気・力の一致」と、教えた。
以上引用

具体的には、以下の引用の通りである
あるとき、古参の門人が、
「一刀流の構えの中に『地摺りの星眼(じずりのせいがん)』という特別のかまえがあるそうでございますがどういうものでございますか」
ときいたことがある。
「そんなものはない」
と、周作は無表情にいった。古参門人はおどろき、
「しかし大先生(浅利又七郎)が、たしかにそうおおせられたように、記憶しております」
「たれが申そうとないものはない。ただの下段の構えのことだ」
下段の構えのことを、そのような誇大な名で別称してきただけのことだと、周作は言いたかったが、そこまでは言うのを憚った。
ただ、こう説明した。
「太刀を星眼(せいがん)、つまり敵の目へ、または下段つまり敵の咽喉元へつける。この場合、いくら気合いをこめても敵はなかなか後ろへ退(さが)らぬものだ。そのときには当方が地を摺るような心で押してゆく。奇妙に敵はさがる。それだけのことだ。構えとしては下段にすぎない」
以上引用

現代のスポーツ界でも、似たようなものである。(もちろん、私も含めて)
さすがに、「流儀に異を唱えるな」といって叱責されたり破門されたりということはないだろうが、著名なアスリートや指導者が言ったことを、わかったような気になって何の疑問も持たずに自分の指導現場で得意になって吹聴する、ということはありがちなことだ。
それこそ、引用した「地摺りの星眼」のようなものである。

いったん分解し、自分なりに再構築すること。
分解しては再構築、の繰り返し。
とてもしんどいことである。
しかし、それこそがアスリートや指導者のするべきことであるという気もする。

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スポーツのパフォーマンス向上や活動的な生活を送ることを目指して、身体の使い方やその関連の事柄を研究します。そして、その過程をブログというメディアに残してゆくことで、何かの足しになればと思っています。

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1971年生まれ 男
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